
「食事をとる」と書くとき、漢字にするなら「取る」?それとも「摂る」?
どちらが正しいのか迷ったことはありませんか?
実は、この2つの漢字は意味が異なり、使う場面によって正解が変わります。
この記事では、辞書や新聞表記をもとに「取る」と「摂る」の正しい使い分けをわかりやすく解説します。
「取る」の意味と使い方
「取る」は非常に多義的な言葉で、「手でつかむ」「自分のものにする」「選ぶ」「受ける」など、多様な意味を持っています。
この語源は「敵や獲物の耳を切り取って戦果を記録した」という古い習慣から来ており、「何かを確実に手中に収める」というニュアンスが含まれています。
例文
- 
書類を取る(手にする) 
- 
賞を取る(得る) 
- 
メモを取る(記録する) 
- 
責任を取る(引き受ける) 
つまり、「取る」は物理的・抽象的を問わず、何かを自分の側に確保する行為を表す漢字です。
「摂る」の意味と使い方
一方の「摂る」は、「体内に取り入れる」「吸収する」という意味で使われます。
この漢字は「摂取」「摂生」などにも使われ、栄養や食べ物、薬などを体に取り込む行為を指します。
例文
- 
食事を摂る(食べ物を体に取り込む) 
- 
栄養を摂る(栄養素を吸収する) 
- 
水分を摂る(脱水防止のために体に入れる) 
つまり、「摂る」は「食べる」「飲む」といった体を通した吸収行為に限定して使うのが正解です。
「取る」と「摂る」の違いを整理
混同しやすい2語を、意味・使う場面・漢字区分で比較してみましょう。
| 比較項目 | 取る | 摂る | 
|---|---|---|
| 意味 | 手に入れる・受ける・行う | 体に取り入れる・吸収する | 
| 主な使用場面 | メモを取る、賞を取る、責任を取る | 食事を摂る、栄養を摂る、水分を摂る | 
| 常用漢字 | ◎(常用) | ×(非常用漢字) | 
| 辞書的意味 | 広く一般的な行為全般を指す | 体への取り込みを表す | 
| 新聞・公的文書 | 「とる」(ひらがな推奨) | 「とる」(ひらがな推奨) | 
👉 食事に関する場面では「摂る」が最も正確ですが、
新聞やビジネス文書では常用漢字の「取る」や、ひらがなの「とる」を使うことが一般的です。
辞書にみる解説の違い
広辞苑(第七版)
「摂る」=食物や栄養を体内に取り入れること。
「取る」=手に入れる・選ぶ・受ける・受け取るなど広い意味。
大辞林
「摂る」は主に食事や薬など、体に取り入れる場面に使う。
「取る」は「取得」「採取」「選取」など、行為全般を表す。
明鏡国語辞典
「食事・栄養の場合は『摂る』を用いるのが一般的。新聞・公文書では『とる』が望ましい。」
このように、どの辞書でも食事・栄養=摂るという使い分けが共通しています。
「摂る」と「取る」の語源の成り立ち
「摂る」と「取る」は、もともと異なる成り立ちを持つ漢字です。
「取」は「耳」と「又(手)」を組み合わせた象形文字で、“手で耳をつかみ取る”という動作を表します。
一方「摂」は「手(扌)」+「聶(ささやく)」からできており、“そっと寄せて取り入れる”という意味を含みます。
この語源の違いからも、「取る」は動作的・行為的、「摂る」は内面的・吸収的なニュアンスがあることがわかります。
まさに「食事=体への取り込み」で使うなら「摂る」がふさわしいと言えるでしょう。
「食事を取る」は間違いなのか?
結論から言うと、「食事を取る」も間違いではありません。
「食事」という言葉は「食べる行為」だけでなく「食べ物そのもの」を指すこともあるため、
「食事を取る」=「食べ物を取る」という解釈も可能です。
ただし、「摂る」はより医学的・栄養学的な文脈に適しているため、
健康や体調に関する記事・論文などでは『摂る』が推奨されます。
「新聞・公的文書」ではどう書く?
新聞社や公用文では、「摂る」は非常用漢字のため使わず、
読みやすさを優先してすべてひらがなで「とる」と表記します。
例:
- 
朝食をとる 
- 
昼食をとる 
- 
栄養をとる 
『毎日新聞 校閲センター』の「毎日ことばPlus」でも、
「食事をとる」「栄養をとる」は、読みやすさを優先し、ひらがな表記が基本です。
と明記されています。
日常とビジネスでの使い分け例
実際の文章では、目的に応じて表記を使い分けることが大切です。
たとえば、メール文では「明日はお昼をとりましょう」とひらがなが最も自然です。
健康系ブログや栄養サイトでは「朝食を摂る」「タンパク質を摂る」のように書くと専門性が伝わります。
逆に、公的な案内文や会社文書では「取る」が主流です。
同じ「とる」でも、読み手の立場や文体に合わせた表記を選ぶことで、文章全体の印象が格段に洗練されます。
「摂る」「取る」「とる」どれを使う?迷ったときの判断基準
| シーン | 正しい表記 | 理由 | 
|---|---|---|
| 健康・栄養・医療系の記事 | 食事を摂る | 専門性・正確性が高い | 
| 一般文・日常会話 | 食事をとる | 読みやすく柔らかい | 
| ビジネスメール・新聞 | 食事をとる | 常用漢字外の使用を避ける | 
| 学術・研究論文 | 栄養を摂る/摂取する | 意味を明確化するため | 
「摂取する」に言い換えるのも◎
もし「摂る」が難しいと感じる場合や、漢字表記を避けたいときは
「摂取する」という熟語に言い換えるのも自然です。
例:
- 
栄養を摂取する 
- 
タンパク質を摂取する 
これなら誤解のない表現として、どんな媒体でも安心して使えます。
まとめ
- 
「食事をとる」の正しい漢字は**「摂る」**。 
- 
「取る」は常用漢字で一般的に使われるが、意味としてはやや広い。 
- 
新聞・公文書では「とる」と平仮名表記が基本。 
- 
健康・栄養を意識した文脈では「摂る」を選ぶと正確。 
- 
迷ったときは「とる」または「摂取する」が安全。 
日本語は文脈によって最適な表現が変わる言語です。
この記事をきっかけに、「とる」の正しい使い方を自信を持って使い分けてください。
 
  
  
  
  
